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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)377号 判決 1960年9月10日

控訴人 吉田吉太郎

被控訴人 福島留吉

主文

原判決を次のように変更する。

控訴人が別紙目録記載の家屋の二階に出入りするため別紙添附図面記載の経路(朱線(点線)を以て示す。)で右家屋内階下を通行する権利を有すること及び控訴人が被控訴人に対し将来の右二階の賃借人に、右経路で同階下を通行させること並びに右階下に設置されている水道、便所の使用をさせることを請求する権利を有することを確認する。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。控訴人が別紙目録記載の家屋の二階に出入りするため右家屋の階下を通行する権利を有すること及び控訴人が被控訴人に対し将来の右二階の賃借人に右家屋の階下の通行をさせること並びに右階下に設置されている水道便所の使用をさせることを請求する権利を有することを確認する。被控訴人は控訴人に対し昭和三二年六月六日から右判決確定に至る迄一ケ月金七、〇〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人訴訟代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用、認否は以下に補充するほか原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

控訴人は、

被控訴人が別紙目録記載の家屋(以下本件家屋と称する。)の階下を賃借した当時、右階下四畳半の間は六畳であり、同階下二畳の板の間の北側は便所になつていたが、その後被控訴人が控訴人に無断で右六畳の間を四畳半とし右便所を取除くことにより本件家屋の裏の空地に通ずる通路を開設した。控訴人は右改造費用を負担する旨申し入れたが被控訴人はその額を明示しないため、支払えなかつたものである。

と述べ、

被控訴人訴訟代理人は、

右事実は被控訴人が右改造を無断でなしたとの点を除き認める。

と述べた。

証拠として控訴人は甲第五号証を提出し、検証の結果(古釘三本)を援用し、被控訴人訴訟代理人は当審での現場検証の結果を援用し、甲第五号証の成立は不知と述べた。

理由

先づ被控訴人の、「本件家屋の二階は現在何人も使用していないから、本訴請求中不特定、未定の人格のために通行権、共同使用権の確認を求める部分は不適法である。」との主張につき考えるに、所論控訴人の請求趣旨は、控訴人と被控訴人間の本件家屋賃貸借契約の効力として、控訴人自身が被控訴人に対し、将来の本件家屋の二階の賃借人にその階下の通行及び便所水道の使用をさせるべき旨を請求する権利を有することの確認を求めるにあること弁論の全趣旨に徴し明らかであるから、若し右契約成立の主張にして真実なりとせば、たとえ現在右二階の賃借人が存在していなくとも右権利は契約成立と同時に控訴人自身の権利として存在しているものということができる。従つて控訴人の前記請求は現在の権別関係の確認請求にほかならず、何ら不適法の廉はない。

よつて進んで右当事者間に本件家屋の階下の賃貸借契約締結に際し前示の如き階下通行権及び便所水道の共同使用権に関する合意が成立しているか否かにつき検討するに、かような合意が明示的になされたことを認めるに足る証拠は存在しない。よつて更に、右の合意が默示的に成立していないかどうかにつき検討する。

1、被控訴人が控訴人からその所有の本件家屋の階下控訴人主張部分を賃借して居住しそれを占有中であることは被控訴人の明かに争わないところであるから自白したものとみなされる。

2、本件家屋一戸が控訴人所有居住中の家屋一戸に壁一重をもつて仕切られて北接し、それと一棟をなす建物でその二階は六畳と八畳の二室があり空室であり表道路から右二階の部屋に至るにはその階下店の間の土間を通り、ついで階下四畳半の部屋に上りこれに続く二畳の板の間を通りそこから階段を上つてゆくか(以下これを第一径路という。)、店の間の通路を通り一旦裏の空地に出て同所から前記板の間へ東側から板戸(但し右板戸のところはその室内室外の両側とも物置として使用され現況のまゝではそこから板の間へ上ることはできないが、右障害物を取り除くことは極めて容易で被控訴人に大した負担にならずに通行が可能となりうる。)を開けて上り、そこから階段を上るか(以下これを第二径路という。末尾添附図面朱線(点線)参照)しか方法がないこと、右二階には便所水道の設備がないことは原審及び当審での検証の結果により明かである。

そして被控訴人が右家屋の階下を賃借した当時、右階下四畳半の間は六畳であり、同階下二畳の板の間の北側は便所になつていたが、その後被控訴人が右六畳の間を四畳半とし便所を取除くことにより本件家屋の裏の空地に通ずる通路を開設したこと、控訴人が右改造費用を負担することを申し入れたが被控訴人がその額を明示しなかつたためこれを支払つていないことはいずれも当事者間に争がない。

3、成立に争のない甲第一号証、原審での証人福島光子、更谷藤四郎の各証言、被控訴人本人訊問の結果を綜合すると、本件家屋の階下賃貸借契約締結当時被控訴人は本件家屋の二階二室が空室になつていてこれを他に賃貸する旨の張紙がしてあつたのを知つておつたことを認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

以上の事実を綜合して考察すれば本件当事者間の前示賃貸借契約締結の際、被控訴人は控訴人に対し、暗默裡に、控訴人が所有者として本件家屋の二階を管理するためこれに出入りするに際しその階下を通行することを認め、また控訴人が右二階を第三者に賃貸した場合は該賃借人に階下を通行させるとともに、その生活に欠くことのできない階下便所及び水道を該賃借人と共同で使用することを諒承していたものと認めるのが相当である。しかしながら右合意は被控訴人の賃借部分の使用収益をなるべく妨げない限度において通行使用を許容する趣旨であると解するのが相当であるから被控訴人が前記裏庭への通路を開設した現状においては、前記第二径路を選ぶのが右約旨に適う使用方法であつて控訴人が二階二室の管理及び使用取益のために現在被控訴人に対し使用を許される部分は右の径路についてであると認める。もつとも右賃貸借当時被控訴人の家族が六人(内一人は住込の使用人)であるのに対しその賃借階下の間取は前記の通り六畳の部屋とこれに続く二畳位の板の間があるだけで、そこで食事就床から子供の勉強まで起居一切をしなければならず、しかも現在の土間は通り抜けになつていなかつたので二階各部屋に行くには右階下二室を通らねばならない事情にあつたことも、前記認定の事実に当審検証の結果と原審での証人福島光子の証言及び被控訴人本人訊問の結果に照し認めうるところであるが、前認定の構造になつている家屋の二階を他に賃貸することを知りながら階下を賃借した被控訴人は階上へ通ずるため賃借人や控訴人が階下の部屋を通ることは覚悟の上であつたか、さもなくば、現状のように階下に通り抜けの土間を開設し、前記第二径路により階下の部屋を余り煩わすことなく二階に通ずるよう控訴人の同意をえて改造することはそうなつている現状に徴して比較的容易であつたと見ることができるから、そうする積りであつたかいづれにしても、右事情を参酌して考察しても前記暗默の合意の認定を左右するに足りない。被控訴人は本件家屋の二階に至るには必ずしも前記階下を通行する必要なく、本件家屋の北隣は控訴人所有且つ居住にかゝる家屋であるから、その接続部の区切りの壁を打抜くならば控訴人方の階段を上つて容易に本件家屋の二階に通行することができると主張するが、被控訴人が賃借する当時本件家屋はその二階へ控訴人方二階より出入できるようになつていたのを態々新に壁をもつてその出入口を閉鎖して控訴人方から独立した現状の二室に改造していたことは原審及び当審での検証の結果に徴し認めうるところであり、被控訴人も賃借に当つては右改造の趣旨は看取しえた筈であるから、被控訴人主張のような状態が控訴人方二階と本件家屋の二階との間に存するからといつて前示暗默の合意を推認する妨となるものではない。

最後に控訴人の賃料相当損害金の請求につき考えるに、本件二階は六畳と八畳の二室であるから地代家賃統制令の適用ある家屋であるところ、控訴人は六畳を三、〇〇〇円八畳を四、〇〇〇円で他に賃貸しえたとの主張を固執して一ケ月合計金七、〇〇〇円の請求をするのであるが、果してそれが統制賃料額の範囲内の適正な損害であるかはこれを認めうる立証をしないので、この部分の請求は認容できない。

以上の理由により控訴人の本訴通行権並びに共同使用権に関する確認請求は叙上の範囲に限り正当として認容すべく、その余の確認請求及び損害金の請求は失当として棄却すべく、これと一部異る原判決は不当であるからその範囲においてこれを変更し、民事訴訟法第三八六条第九六条第九二条但書を適用し主文のように判決する。

(裁判官 石井末一 小西勝 井野口勤)

目録

奈良県生駒郡生駒町大字谷田三〇四番地上

家屋番号 谷田百三十八番

一、木造瓦葺二階建店舗 一棟

建坪 十一坪六合

二階坪 十坪二合

付属一号

木造瓦葺二階建店舗 一棟

建坪 十坪二合

二階坪 八坪九合

右建物を一棟に合体しこれを南北三戸に仕切つた南側の一戸。

図<省略>

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